「もしもし、亮ちゃん?」

『あ、千笑ちゃん?昨日うちに書類忘れていったみたいなんだけど、ひょっとしてこれ、今日必要?』

「……えっ⁉︎」


その言葉に嫌な予感がして、耳と肩でスマホを挟んだままガサゴソとバッグを漁れば、案の定、そこに入っていると思っていた書類がどこにも見当たらない。


「……それ、午後イチで必要な奴だ……」

『あ、やっぱり?さっき気付いて千笑ちゃんの部屋来てみたら、もう出ちゃった後みたいだったから急いで電話してみたんだけど……』


今日の午後の名桐くんたちとのミーティングで使うために用意していた資料だったのに、まさかそれを忘れてきてしまうとは……。

やってしまった……、と自分に呆れながらも、果たして取りに戻るタイミングはあるだろうかと今日のスケジュールを頭に思い浮かべていれば、何と亮ちゃんから鶴の一声が。


『僕今日午後から出社だから、良かったらその前に届けに寄るよ』

「えっ、いいの⁉︎」

『うん、ついでだから』

「亮ちゃん、天使……」

『ちょ、天使はやめて』


亮ちゃんの苦笑が空気の振動を通して伝わって来る。


「だって、今日スケジュール詰まってて多分取りに戻る余裕なさそうだったから。助かります……!」

『なら良かった。お昼くらいになると思うけど平気?』

「うん、ミーティングは十三時半からだから平気!ごめんね、ほんとありがとう!」


見える訳もないのに、私はその場でぺこりと頭を下げた。