「フォルセ、あんたの記憶にある商家は、確かにこの街にかつて実在し、没落して今はないそうだよ。だけどね、それはもう50年は昔のことだっていうじゃないか」

 フォルセは、奇妙に冷静にそれを聞いていた。

「その家に娘がいたと覚えてる人もいたよ。私が直接、何人かから話を聞いてきた。小さなお嬢さんがいたはずだとね。でも、それはどう計算してもあんたじゃない。いったいこれは、どういうことなんだろうね」

 親方は、聞いた話を忘れぬようにと書き付けた紙を渡してくれた。
 見慣れた字で並ぶ、何人もの見知らぬ人の名と、証言。
 そして書かれた、令嬢の名は、フォルセではなく、ラフォルセーヌ。

「でも、これも、私の名?」
 混乱する。
 記憶はまだはっきりとある。けれど確かに、着ていた服の様式が、とても古いことに気がついた。今はもう流行遅れが一周回って再び注目され始めている、総レースのドレスを着ている幼い自分に、違和感を感じた。

 自分の幼い時の記憶ではないなら。
 でも、なぜ? メギナルもその記憶を覚えているのは、なぜだろう。
 けれど、思い返せば、はっきりと関係を言われたことはなかった。
 疑問を抱けば、気がついてしまう。
 記憶の少年は、黒い髪と目をしていた。整った顔立ちだったけれど、メギナルよりもっと甘い目をしていたし、何より、鼻の形も違う。
 何故二人を同一視していたのか、わからない。
 そう思った次の瞬間には、少年の顔にメギナルが重なった。
 まるで、少年の記憶を上書きするように。

 人は違う、けれど、あれはメギナルだ。
 では、あれは、前世の記憶――?