でも、私はα(アルファ)Ω(オメガ)とは無縁の世界で生きている。

もし第二の性に分類されるとしたら、私はきっとβ(ベータ)だろう。

だって、私は裕福な家庭で育ったわけでもないし、見た目も地味だから。


ふたつに結んだ黒髪の三つ編みに、黒縁(くろぶち)伊達(だて)メガネ。

制服はいちばん上まできっちりとボタンを()めて、スカートは膝下《ひざした》までのびている。


野獣様にがんばってアピールをしているご令嬢たちと比べると、私は色気なんてまったくない。

だから、私が野獣様から相手にされることは絶対にないのだけれど。


とはいえ、自由時間でも静かに過ごしたい人はいるのだから、もう少し周りに配慮(はいりょ)してほしい。


この学園には、お育ちのいい人たちが集まっているから、図書館じゃなくても静かに読書ができると思っていたのに……。


そこだけが、期待(はず)れなところだった。


あぁ……。
こういうとき、図書館に行けたらなぁ……。


このとき、読書のことしか頭になかった私は知る(よし)もなかった。


これから予期せぬ物語が始まるということに――。