「そうだよな……仁愛ちゃんは、俺のフェロモンにも一切反応してなかったし」

「豹くんと大牙くんのフェロモンに反応しないってことは、仁愛ちゃんにはすでにパートナーがいるってことなのかな?」

「いや、それはない――」


瑚依の言う通り、俺たちのフェロモンに当てられないβ(ベータ)には、すでにパートナーがいる。

でも、アイツの場合は違う。


「――俺はアイツのフェロモンに当てられて、“ラット”を誘発させられたから」

「「えっ……?」」


俺の言葉に、美琴と瑚依が声をそろえて驚く。


「そういえば、仁愛ちゃんから妙に甘い匂いがしたんだよね。俺はその匂いに誘われて、バラ園に来たんだけど」

「フェロモンの匂いって……普通、β(ベータ)はフェロモンを出さないはずだけど」

「……ってことは、仁愛ちゃんって“私たちと同じ”ってこと?」

「いや。仁愛ちゃんのフェロモンは、少なくとも俺たちのものとは違ってたよ」

「待って! それじゃ、仁愛の“第二の性”って……まさかっ!」

「あぁ、その“まさか”だよ。アイツはβ(ベータ)じゃない。“β(ベータ)に擬態してる”んだ」


“仁愛の正体”に気づいたみんなは、目を見開いて息を呑む。