「逃げんな。俺のこと、ちゃんと見ろよ……」


乱暴な言葉とは裏腹に、野獣様はまるで宝物のように私に触れる。

あまりにも大切そうにこちらを見つめるから、目を離せなくなってしまった。

こんなサイテークズ男なんて、触られるだけでも嫌なのに……。


――野獣様が欲しい。


そう体が強く求めてうずく。


「やっと見つけた……俺の“運命の(つがい)”」


自分を保つにもとうとう限界が来てしまって、このまま野獣様に身を任せようとした――そのとき。


いつも野獣様の周りにいるご令嬢たちが脳裏(のうり)に浮かんだ。

このまま()まれたら、あの令嬢たちと同じだわ!
冗談じゃない!


「イヤだってばっ!!」


野獣様と唇が触れる寸前。

正気を取り戻した私は、大きな声を上げて、近くにあったカバンをブンッと振り回した。