「イヤッ! 離してっ!!」

「離さねぇよ」

「……っ!!」


野獣様の生温かくて大きな手が私の体に侵入してくる。


「ちょっと! 何するのよっ!」

「何って……言われなきゃわからないわけ? それとも、ちゃんと言葉で言ったほうが興奮するタイプ? おとなしそうな顔してる割には、意外と大胆(だいたん)なんだな」


不敵な笑みを浮かべる野獣様に抵抗するけれど、野獣様の力が強すぎて逃げられない。

人の許可なく勝手に体に触れるなんて。

この男、やっぱりサイテーだし、クズだっ!


「イヤッ!! 触んないでっ!!」

負けじと必死に(あらが)い続ける私。

その拍子に、かけていた黒縁のメガネが地面に落ちた――その瞬間だった。


――ドクンッ!

突然、強烈な甘ったるい匂いがして、心臓が大きく脈を打った。


なに、この匂い……。

バラの香りじゃない。

でも、この匂いのせいで、心臓が痛いほどドキドキして、まるで酔ったみたいに頭がクラクラする。


いったい何が起こってるの?