「そんなわけないでしょ! ここが立入禁止区域だって知ってたら、そもそもここには来てないわ」
私がそれを知らなかったのは、この学園に入学説明会も入学式もなかったからだ。
それに、この学園には図書館にしか興味がないから、それ以外のことについてはよくわからない。
だから、立入禁止区域があるなんて初耳だった。
それなら、最初から言っておいてほしかったよ……。
「じゃあ、なんでここに来た?」
「それは、“このバラ”の匂いに誘われたからよ」
「“このバラ”の匂いだと……?」
野獣様はひどく驚いた顔で、こちらを見ている。
ただ聞かれたことをそのまま答えだけなんだけど……。
何か気に障るようなことを言ってしまったのだろうか。
とにかく、これ以上この男と関わると、きっとろくなことにならない。
「そういうことなので、私はこれで……」
一刻も早くこの場から離れようとした――そのときだった。
「チッ! ムカつく……」
背後から苛立ちの声が聞こえたかと思えば、いきなり野獣様が荒々しく私を抱き寄せた。



