「サミュ?! どうしたの?」

 膝に手を置き、肩で息をするサミュは、呼吸を整えるとエレノアの手を取って走り出した。

「エレノア様が来ていると聞いて……団長も大変な時にすみませんが、来ていただけますか……!!」
「エレノア様?!」

 サミュに手を引かれ走り出したエレノアにエマも驚きながら追いかける。

「これは、厄介なことになりそうだな」

 ボソリと呟いたオーガストは眼鏡をクイ、と上げると、三人の後を追った。


「これ……は」

 サミュに手を引かれ、やって来たのは騎士団の訓練場。広い地面には多くの騎士たちが苦しそうに横たわっていた。

「魔物の毒にやられた騎士たちです。治療をしてもらえず、ずっとここに放置されているんです!!」
「そんな……」

 二年前の光景がエレノアの脳裏に蘇る。貴族出身以外の騎士たちは病棟にも入れてもらえず、治療にあたるのは力の弱い底辺の聖女。

「聖女は……?」

 今は、聖女の姿が一人も見当たらない。

「ここには派遣されていません」
「そんなっ……! だって、騎士団の貴族主義は無くなったんじゃないの?!」
「……教会は未だ貴族主義です。グランの家、オーブリー伯爵家は密かに教会と繋がっていました。今回の討伐だって、あいつらは何故か予め情報を得、毒の耐性魔法を教会から受け、前線にも出なかった」

 説明をするサミュの顔がどんどん青くなっていく。よく見たら、額には脂汗が滲んでいる。走ったからではない、毒にやられたからだとエレノアは瞬時に理解した。

「サミュ、もう説明はいいから……!」

 エレノアが治療しようとサミュを制するも、サミュは話を止めない。

「わざと第一隊が前線に当たるような配置に持って行き、あいつらは加勢しようともしなかった……団長が助けてくれなかったら、また僕は……第一隊は……壊滅する所でした」
「ザーク様が……」
「そのせいで団長も魔物の毒を受けました。エレノア様……申し訳ございません……! でも、お願いします! 僕はどうなっても良いから、第一隊を助けて欲しいんです!!」

 サミュは息も絶え絶えにエレノアに訴えた。