その日の夜、エレノアは飴を作っていた。

 カーメレン公爵家のキッチンから苺を一粒だけ譲ってもらい、水魔法と聖女の力を使い、飴を精製していく。

(せめて、これだけでも……)

 聖女の力を込めた飴を苺にくるくると付着させていくと、心配そうな顔でエマがキッチンまでやって来た。

「エレノア様、魔物討伐のこと聞きました……」
「うん。それでね、エマ、この飴を明日の朝、ザーク様に渡してくれないかな?」

 今日の夕食はイザークとは別々だった。

 イザークが気まずいのを気を利かせてくれたのだろう。実際、どんな顔をして会えば良いかわからないエレノアは助かった。

(やっとザーク様が帰って来られての夕食なのに、私何やってるんだろう……)

「エレノア様がお渡しされた方がイザーク様も喜びますわ」

 エマが眉を下げてエレノアに言うも、エレノアも困ってしまう。

「私、ザーク様に酷い態度を取ってしまって……合わせる顔がないから、エマにお願いしていい?」
「それはイザーク様が百パーセント悪いからじゃないですか?」
「エマったら……」

 いつもの調子のエマに、エレノアもつい笑みがこぼれた。

「ザーク様は帰って来るって言った。その時、私たちは離婚の話を進める。だから、今は会わない方が良い……」
「エレノア様……」

 エレノアの言葉にエマは何も言わなくなった。

 翌日の早朝、エレノアの飴を受け取ったイザークは、騎士団を率いて魔物討伐へと出掛けて行った。