二人のやり取りをワナワナと見ていたエミリアが、たまらずイザークに叫んだ。

「下賤……? 私の妻を貶めるのですか? バーンズ侯爵令嬢、こういったことはやめてほしい。私はエレノアを、妻しか愛せませんので」
「そ、そんな……」

 エレノアを抱きしめながらきっぱりと告げるイザークに、エミリアはガクガクと震えている。

「……グラン、お前の処遇は追って伝える」

 隅で青い顔をしていたグランを睨みつけ、イザークが言い放つと、グランは「ひっ」と声を出して縮こまった。

「でも、その女は!! イザーク様と離婚するつもりですわ! 貴方を愛していないのです! 貴方を愛しているのは私だけですわ!!」

 なおもイザークに縋ろうとするエミリアに、イザークは冷ややかな表情を向ける。そしてエレノアの手元にある離婚届とペンを見つける。

「……これは強制されたの? エレノアの意思?」

 優しい表情をエレノアに向けるも、イザークの瞳は冷たいままだった。

「それ……は……」
「ここでする話じゃないね」

 エレノアが答えられずにいると、イザークはにっこりと笑顔を作って、エレノアを横抱きに抱えた。

「行くよ」

 護衛に声をかけ、エレノアを抱えたままイザークは踵を返して温室を出た。

「イザークさまあああ!!」

 後ろからはエミリアの悲痛な叫び声が聞こえた。