それからエマと並んで、第一隊の稽古を見学したが、イザークは容赦なく騎士たちを倒していき、決勝戦はサミュとの一騎打ちになった。

 騎士たちからは「ずるい」とか「やっぱりな」とかブーイングが飛んだが、久しぶりにイザークに相手をしてもらえて嬉しそうだ、とエマから説明された。

「団長、エレノア様のケーキは僕がもらいますよ!」
「エレノアの作った物は誰にもやらない。というかサミュ、何でケーキだと知っている?」
「先程エレノア様に見せてもらったからですよ」
「くっ……」

 自分のケーキが挑発材料にされているエレノアは、何だか恥ずかしくていたたまれない。

(な、何でケーキごときでザーク様もあんなに真剣に……)

 それからイザークとサミュの剣の打ち合いが始まった。第一隊の隊長を任されるだけあって、サミュの剣筋は早く、動きも軽やかだ。

 それを受け流し、イザークも重たい一撃を放つ。

(わ……、凄い! さっきまではそんなに動いていなかったザーク様の剣が、サミュ相手に凄まじくなってる!)

 思わず前のめりでイザークの剣筋に見惚れるエレノアに、エマがぼそりと耳打ちをする。

「エレノア様が見てるので張り切ってますね」
「ええ?!」

 とても張り切っているようには見えないイザークに、エレノアが目をやると、イザークと視線がぶつかる。

(う、わ……)

 真剣な表情のイザークに胸が跳ねると同時に、イザークがエレノアにふわりと笑うと、勝負は一気に片が付いた。

 ざんっ、とサミュが地面に倒れると同時に、イザークの剣がサミュのすぐ横に突き立てられる。

「はっ、はっ……、団長……、やっぱ強え……!」
「お前もますます腕をあげたな。第一隊を頼むぞ」

 倒れ込んだサミュに手を差し伸べ、イザークはサミュを起こす。

 わっ、と第一隊の騎士たちからは歓声が上がった。

「エレノアの差し入れは俺のものだな」

 にっこりとバスケットに駆け寄り、口付けをするイザークに、サミュがぶはっ、と吹き出した。

「団長、台無しですよ」

 サミュの言葉に、騎士たちも続いて大笑いした。

「どんだけ奥さん好きなんですか」
「エレノア様すげー」

 そんな声がエレノアにも届き、エレノアはただ顔を真っ赤にするのだった。