「配達はどちらなんですか?」

 まさか教会関係じゃないよね、と思いながら恐る恐る女将に尋ねれば、意外な答えが返ってきた。

「カーメレン公爵様のお屋敷だよ」
「カーメレン、こう、しゃく、家??」

 女将の答えにエレノアは口をパクパクとさせた。

(カーメレン公爵家は私だって知っている。王都に構えるタウンハウスはとても大きくて)

 確か、聖女の頂点に立つご令嬢が、そちらのご子息の婚約者だとか何とか、噂を聞いたような気がした。

(聖女と関わりがある家ならマズイけど、そんな大貴族様の注文を断るわけにもいかないよね)

 軌道に乗っているとはいえ、王都の小さな果実店一つ握り潰すなんて、公爵家には簡単なことだろう。エレノアがそんなことを考えていると、女将は斜め上のことを言ってきた。

「もしかしてエレノア、見初められたんじゃないかい?」
「ええ?!」
「だってエレノアは可愛いもの」

 冗談なのか、本気なのか、女将はふふふと笑って言った。

(うん、身内の欲目だね)

 孤児院出身で教会を追放された下っ端聖女の私が公爵様に見初められる訳がない、とエレノアは心の中で自分を卑下した。

 エレノアの銀色の髪も、金色の瞳も珍しくは無いし、どこにでもいる女の子だ。

 女将に拾われた今では、身綺麗にすることも叶ったが、教会にいた頃はズタボロの布を纏っていた。手は未だにボロボロだ。

 エレノアの奇跡の力は他人に使えても、自分には効かないらしい。

「とにかく、行ってきますね」

 自分のボロボロの手を見て、ふう、と溜息をついたエレノアは、女将に気合いを入れて言った。