「エレノア様?!」

 突きとばされたサミュを受け止めると、彼は真ん丸の目をぱっちりと驚かせてエレノアを見た。

「貴族とか、孤児とか、ザーク様はそんなものに拘らずに騎士団を作りたいのだと、どうして彼に憧れているのならわからないんですか?!」
「……誰だ、お前」

 訴えるエレノアに、グランが眉をひそめて言う。

 体制を整えたサミュが庇うようにエレノアの前に出る。

「団長の奥様だよ」
「は?!」

 サミュの言葉に、グランが増々眉根を寄せる。

「団長の婚約者はエミリア様だったはず……」

 信じられない、といった様子でグランがふらつくと、エレノアを一瞥する。

 凍てつく視線に、エレノアも身がすくむ。サミュが前に立ちはだかってくれていたので、何とか立っていられたが。

「失礼ですよ。この方はイザーク様の正真正銘、奥様なのですから!」

 エマも急いでエレノアの元に駆け寄ると、グランを睨みつけて言い放つ。

「は? メイド風情が俺に話しかけるな。 団長の奥様だと? 俺は認めない。エミリア様以外にあの方に釣り合う方などいないのだから!」

 ねじ曲がった方向にイザークを妄信するグランに話は通じない。キッ、とエレノアを睨み付けると、手にしていたバスケットを掴む。

「何だ? こんなみすぼらしい物を団長に差し上げるつもりだったのか?」
「返してください!」

 バスケットはひょい、とグランに取り上げられ、エレノアが訴えるも、彼に返す気は無い。

「エミリア様はそれはそれは素晴らしい高級品を団長に持って来られるぞ? こんなみすぼらしい物……」

 馬鹿にした笑いでエレノアを見下ろすグランに、エレノアは胸がムカムカする。

(あ、久しぶりに偉そうな貴族見た。周りの人が良すぎて忘れてたけど、こういうやつはまだいるのよね)

 エレノアが冷めた目でグランを見れば、彼はカッとなってバスケットを高く掲げた。

「何だ、こんな物――!」
「止めて!!」

 グランがバスケットを投げつけようとしているのだと気付き、急いでバスケットに飛びついたエレノアは、バスケットごと殴られそうになる。