「ああ、例の聖女か。遅くなったが、結婚おめでとう、イザーク。それで結婚式はいつだい?」
「……わざとそういうことを仰るのはおやめください」
「兄上、式まで挙げてしまえば彼女も逃げられませんよ」

 二人揃ってクツクツとイザークを誂うので、何ともいたたまれない。年下のこの二人は、性格も似ているため、馬が合うらしい。

「おや、ミモザの香りがする」
「……私のハンドクリームです」
「兄上は最近、ハンドクリームがお気に入りのようです」
「それは何とも可愛らしい」

 話が変わったかと思うと、ますます突っ込まれたくない話題に突入し、イザークは苦い顔をする。

「義姉上からの贈り物ですよね」
「そうか。ミモザは君たちの家紋でもあったな。秘密の恋か真実の愛か、どちらかな?」

 オーガストに余計なことを、と思ったが、遅かった。それを聞いたフィンレーはますます楽しそうに笑みを浮かべている。

 ミモザには他にも花言葉があるのに、あえて『恋』に関係することだけ抜粋するのは意地が悪いとイザークは思った。

(エレノアはそんなに深く考えずに贈ってくれたのだろう。カーメレン公爵家の家紋だと知って買ってくれたと言っていたからな)

「ふふふ、イザークのそんな顔が見られるとは」

 そんな顔とはどんな顔だろうか。フィンレーは何とも楽しそうに笑っている。

 オーガストの方を見れば、弟も嬉しそうに笑っていた。

 エレノアを想い、口元が緩んでいたことなんて気付かないイザークは、ただ二人に困惑するのだった。

「氷の鉄壁にも春が来たか」
「義姉上は本当に凄い人ですねえ」

 困惑するイザークに、二人は訳のわからない会話を続ける。

 面白がって誂ってはいるが、二人がやけに嬉しそうなので、イザークはただ黙っているだけだった。