「エレノアのもも飴、食べたかったなあ」

 本邸から離れへイザークと一緒に戻る途中、彼は残念そうに溢した。

「力があるとわかれば制御も出来ますので、また作りますよ?」
「今日、楽しみだった」

 エレノアがそう言えば、イザークはまるで子供のように拗ねてみせた。

(もう、この人は)

 隣で並んで歩くイザークからは、自然と手が繋がれていた。エレノアもそれを自然と受け入れていた。

「あ、そうだ」

 離れにつき、自然とミモザの中庭へ向かっていた二人だが、中庭に着いたところでエレノアが声をあげる。

 繋いだ手を離し、ワンピースのポケットをゴソゴソと探る。

 何故か残念そうな顔のイザークを置いておいて、エレノアはポケットから昼間買ったハンドクリームを差し出した。

「これは……」
「ミモザの香りのハンドクリームです! カーメレン公爵家の家紋にミモザがあしらわれていると聞いて、買っちゃいました! ザーク様に」
「俺に……?」

 エレノアが差し出したハンドクリームを見て、イザークが固まってしまった。

(う、男の人にハンドクリームって変だったかな? でもザーク様、苺のやつ気に入ってたし)

 おずおずとイザークを見れば、彼はふっと表情を崩して、ハンドクリームを手に取った。

「ありがとう、エレノア。一生大切にする」

 手に取ったハンドクリームにアイザークは唇を落とした。

「いや、使ってくださいね?」

 何だか大袈裟すぎる、と思いつつも、エレノアの顔も緩んだ。

「俺も、」

 そう言って今度はエレノアの手にイザークから何かを手渡される。

 エレノアが手に視線を落とせば、そこには桃の香りのハンドクリーム。

「どんだけ、楽しみだったんですか!!」

 ハンドクリームを見た瞬間、泣きそうなほど嬉しかったのに、エレノアからはつい突っ込みが出てしまった。

 隣のイザークを見れば嬉しそうに笑っている。

 ミモザの甘い香りに酔いそうだ、とエレノアは思った。