滑らせるようにエレノアの頬を撫でるイザークの指がくすぐったくて、思わずエレノアは目を閉じてしまう。

「!」

 エレノアに添えられたイザークの手が揺れる感覚がした。そして、ふわりと苺の香りが鼻を掠めた。

「……! この香り、苺のハンドクリームですね?」

 自分に贈られた物と同じ香りがイザークからして、パッと目を開けば、イザークの顔が至近距離にあった。

「「?!?!」」

 今にも唇が付きそうな至近距離にエレノアは驚き、一気に顔へ熱が集まる。
 
 イザークも慌てて身体を離し、勢いよくベンチの端っこまで後退りしてしまった。

「す、す、すまない!!」
「い、いえ!!」

 今日は星が綺麗に輝き、地上も明るい。お互いに顔が真っ赤であることは至近距離ならばわかった。

(びびび、びっくりした!! いくら何でも距離感おかしすぎるでしょ!!)

 まだ熱い自分の頬を両手で覆いながら、エレノアは顔が赤いのを隠そうとした。

「あ、あの! ザーク様も苺のハンドクリームを?」

 ベンチの端っこで俯いているイザークに、話題を変えようと、先程した香りの話をすれば、彼も乗ってくれた。

「あ、ああ。俺も気に入ってな……その、おかしいかな?」
「ふふ、ザーク様らしいです」
「そうか?」

 エレノアは初めていちご飴をかじる、似つかわしくない騎士姿のイザークを思い出した。

(あの時は違和感があったけど、今はそんな可愛らしい姿もザーク様らしいというか……)

「次は桃なんですよ」
「え?」

 顔の火照りが少し引いてきて、エレノアは話を続けた。

「夏の果実飴、オレンジに代わって桃になる予定なんです。明日、試作するんですよ」
「そうか……俺は明日騎士団で行けないから、見られなくて残念だ」
「試作品、持って帰って来ますね?」
「本当か?!」

 エレノアの言葉にイザークの顔がパッと明るくなり、エレノアは笑ってしまう。

(うん、ザーク様のこの顔が一番好き)

 ベンチの端っこにいたイザークは、にこにこと嬉しそうにしている。

 そんなイザークに、今度はエレノアから距離を詰める。

「桃も、絶対に美味しいですよ!」

 すぐ近くに来たエレノアに目をパチクリとさせたイザークは、ふい、と顔をそらすと「楽しみだな」と言った。そらした顔から見える耳が、赤いように思えた。

「次は桃の香りかな……」
「え?」

 ぽそりと溢したイザークにエレノアが聞き返すと、彼は顔を少しだけエレノアに傾けて言った。

「エレノアのハンドクリーム」
「楽しみにしてます!」

 イザークの言葉にエレノアは満面の笑みで返した。