エレノアにその知らせが行ったのは、シスターが亡くなってしばらく経った冬の終わり頃だった。

 教会を出ることも叶わず、エレノアはシスターに再会することも、お別れを言うことも叶わなかった。

 シスターが亡くなり、孤児院は解体され、孤児たちはバラバラになったと伝え聞いた。

 それから、エレノアは徐々に気力と聖女の力を失った。

 使えなくなったエレノアを教会はあっさりと追放し、ようやく搾取されていたことにエレノアが気付いた時には手遅れだった。

 もっと早くに知らせてくれていたら、自分が駆けつけて治せていたかもしれない。エレノアは後悔に襲われ、行く当てもなく彷徨った。

 自然と孤児院の方へ足が向いたが、徒歩で辿り着ける筈もなく、行き倒れた所を果実屋の女将に助けられ、今に至る。

 大事な人を失ってまでする仕事に何の意味があるのかと、酷く落ち込んだが、飴屋で輝きと真っ当な生活を取り戻したのは女将のおかげだ。

(女将さんは、シスターに少し似ている。他人に優しい所、愛情を惜しまない所……)

 女将にはシスター同様に、母のような愛情をエレノアは抱いていた。こうしてエレノアが立ち直れているのは、女将のおかげだ。

 そして、イザーク。溜息をもたらした彼は、最近エレノアの心をポカポカと温める。今まで感じたことの無い感情に、エレノアは戸惑っていた。

 そしてこのカーメレン公爵家の人たちのおかげで幸せを感じられている。遠からず別れるが、死別する訳では無い。

「悲しいことを思い出させてすまない……」

 これから訪れる別れを思っていると、イザークが悲しそうにこちらを見てきた。

 オーガストもジョージもエマも、皆、申し訳無さそうにシンとしていた。

「いえ、大丈夫です。皆様、気遣っていただいて、私を教会から守っていただいて、本当にありがとうございます」

 エレノアは皆に向かって、改めて頭を下げて感謝を述べた。

(シスター以上に悲しいお別れなんてないもの。生きてさえいれば、顔を見かけることや、活躍のお話を聞くことだってある。それよりも、あんな教会に二度と搾取なんてされない! オーガスト様にはぶっ潰してもらわないと!)

 シスターへの悲しみを思い出したエレノアは、教会への憎しみを胸に、改めてこの結婚に協力することを誓った。