「ええと、では私はイザーク様とお呼びしても?」
「……っ……!」

 イザークに改めて向き直り、エレノアも名前を呼んでみる。

 しかし、イザークは顔を横に背けて、手で覆ってしまった。

(あれ? ダメだったのかな? 仮の妻なのに調子に乗るなって?)

「すみません、調子に乗り……」
「……と」
「え?」

 慌てて謝罪しようとすると、イザークは顔を覆った手のひらの隙間から瞳を覗かせ、ぽそりと言った。

「ザークと呼んでくれないか」
「ザーク様?」

(何故に愛称?貴族ってそんなものなのかな?)

 エレノアは首を傾げながらも、イザークの言葉を復唱すると、彼の顔が、こちらを向いて輝いた。

(ななな、何でそんなに嬉しそう?!)

「エレノア、お金は払うからもっと食べたい」
「ええと?」

 嬉しそうなイザークは更にエレノアとの距離を詰めると、子供みたいに飴をねだった。

「じゃあ……」

 口を開けて待つイザークに、当然のように「あーん」なのか、と顔を赤くしながらも、エレノアはいちごを一粒彼の口に運ぶ。

 パクリ、と一口でいちごを入れたイザークは、顔を綻ばせ、「美味しい」と何度も言うと、エレノアの手を掴んだ。

「ザーク様?」

 熱っぽいイザークの瞳と絡むと、彼はエレノアの指をペロリとなめた。

「ななな?!」

 驚いて赤くなるエレノアに、イザークは子供のような笑顔で言った。

「エレノアの指も甘くて美味しい」
「飴が付いていますからね!!」

 そんな恥ずかしいことを無邪気な笑顔でイザークが言うので、エレノアはついツッコんでしまった。