「では、教会の悪事が暴かれるまで、バーンズ侯爵家のご令嬢のほとぼりが冷めるまで、仮の結婚ということですね!」
「いや、あの……」
「ああ、そういうことで良いよ。ただ、君を守るために、結婚は本当にしてもらうよ?」
「教会に戻らなくて済むなら、何でも良いです!」
「じゃあ、交渉は成立、ってことで」

 イザークはまだ何か言いたげだったが、悲しそうな表情のまま、黙ってしまった。

(この結婚は、王家も絡んだ教会糾弾のためのもの。真面目な騎士様は、私に申し訳無いとか思ってそうだなあ)

 エレノアがそんなことを考えているうちに、オーガストがどんどん話を進めていって、結婚に必要な書類もその場で書かされた。

「はい、では後はこれを部署に提出すれば、二人は夫婦です」

 オーガストの言葉に、次期当主ではないとはいえ、公爵家の方といやにあっさりと手続き出来たなあ、とエレノアは関心する。

「はい、では明日からエレノア殿にはこの公爵家の離れで暮らしてもらいます。もちろん、兄上も一緒にね?」
「はあ?!」

 感心していたのも束の間、オーガストからとんでもない言葉が出てきて、エレノアは思わず声をあげた。

「結婚したのに別居はないでしょう。それに、兄上は今は騎士団の寮にいるので、新しい家を探すより、ここに戻ってくる方が早いでしょう。警備も人員を割かなくて済みますし。あ、もちろん部屋は別々です」
「離婚するのに新しい家はいらないですしねえ」
「え」
「騎士様?」

 オーガストの言葉に、それもそうか、とエレノアは思い、部屋が別なことに安堵する。その流れで思わず溢した言葉に、イザークが横で固まった。

「離婚?」
「いや、仮の結婚ならそのうちしますよね?」
「……俺は……」
「騎士様?」

 何故か驚いて目を見開いたイザークにエレノアがそう言えば、彼はフリーズしてしまった。

「エレノア殿、先のことはまだ考えなくても良いのでは? 今はとにかく自身の安全を考えていただいて……」
「それもそうですね」

 黙ってしまったイザークの代わりにオーガストがそう言ってくれたので、エレノアも笑顔で答えた。

(うん、色々ツッコミどころや疑問もあるけど、教会に連れ戻される恐怖を考えたら、好条件の提案だ。ここは乗っからせてもらおう)

 納得をしたエレノアは、ふと大切なことに気付く。

「あ、そうだ。飴屋は続けても良いですか?」