エレノアはイザークに頷くと、オーガストに再び顔を向ける。彼も、申し訳無さそうに微笑んだ。

「怖がらせてしまったなら、すまない、エレノア殿。これを見て欲しい」

 そう言ってオーガストは立ち上がり、キャビネットの中から取り出した瓶を二本、大理石のテーブルの上に置いた。

「聖水、ですか?」

 置かれた瓶を見て、エレノアはすぐにわかった。教会にいた頃、嫌というほど作らされてきた物だったからだ。

(あれ?でも……)

「流石、貴方が作っていただけあってわかりますか」

 エレノアの表情を見たオーガストがにっこりと笑って言った。

 聖水を誰が作ったかなんて、公開はされていない。あくまで、『聖女が作ったもの』。その功績の多くは、貴族令嬢である聖女様たちに持っていかれる。

(……この人、どこまで私のことを調べているのかしら)
 
 公爵家の調査力に驚きながらも、エレノアはオーガストに指さして言った。

「これは私が作ったものですが、もう一本のは何か(・・)おかしいです」

 自分が作った物は、銀色の光がキラキラとして目に映るので、エレノアにはわかる。でも、もう一本の方は、様子がおかしい。光が薄れ、無いに等しいほどだった。

「なるほど。聖女にはそう見えるのですか」

 納得したオーガストが、ふむ、と手を顎の下にやる。そして、エレノアの能力について核心をついた。

「エレノア殿、貴方の奇跡は、口にする物に付与してこそ発揮されるのですね」
「!」

 言い当てられたエレノアは、びくりと肩を揺らす。

 まだ手を握っていてくれたイザークが、「大丈夫だ」という目で更に強く手を握ってくれたので、エレノアは呼吸をし、オーガストに向き合う。

「何故、わかったのですか?」

 真っ直ぐにオーガストに向き合えば、彼はふっ、と笑みを溢した。

「ああ、すみません。私には『鑑定』の力があるんです」
「かん、てい」

 不敵な笑みで、二本の瓶を揺らすオーガストに、エレノアは驚いて、言葉を繰り返した。