エレノアは理解出来ず、同じ言葉を繰り返した。

「サンダース商会が出資もしてくれるそうですよ」
「マルシャの家? そうだ! マルシャたちは大丈夫だったんですか?!」

 あの事件からゴタゴタしてマルシャに会えていなかった。教会から脅されていたようだが、マルシャたちが罪に問われることになるのは避けたい。

「大丈夫ですよ。あの人たちも被害者ですから。ただ、今回の聖女派遣商会の設立には多大な貢献をしてもらいましたけどね」
「王家が表立って出来ない分、助かったな」

 ははは、とオーガストとフィンレーが笑い合う。

(それも脅しているのでは……?)

 笑い合う二人にエレノアは恐怖を覚えつつ、笑顔が引き攣る。

「まあ、冗談はここまでで」
「冗談じゃないですよね?!」

 オーガストがしれっと話を変えるので、エレノアは思わずツッコんでしまう。

「きちんとした待遇で聖女を仕事として扱う。貴族の聖女のほとんどは下位と呼ばれる聖女たちの手柄の横取りで、力なんてありませんでした。だから、ほとんどが虐げられてきた聖女たちで構成されます」
「あ……」

 教会に搾取されてきたことは許せない。ただ、自分に力があるなら、困っている人を助けたい。命を見捨てることはもう二度としたくない。

 エレノアはオーガストに言われ、自身の気持ちを再確認する。

「あなたには、その力もあります。どうか、引き受けていただけませんか?」
「あ……」

 やりたい気持ちはある。本当に自分で良いのか。迷うエレノアの肩に、イザークの手が添えられる。

「エレノア、君がやりたいことは俺も応援するし、力になる」
「ザーク様……」
「それに、虐げられてきた聖女たちを理解し、幸せに出来るのは君だけだと俺は思う」

 イザークの言葉がすとん、とエレノアの心に落ちる。

(国民のためだけじゃない。私は、私と同じように搾取されてきた聖女たちにも幸せになって欲しいんだ)

 いつでもエレノアの心をすくい上げてくれるイザークに、エレノアは涙が込み上げてきそうになる。

 優しい空色の眼差しは、まっすぐにエレノアを後押ししてくれた。

「はい。私でよければ精一杯、努めさせていただきます」