「じゃあ、帰りましょう、エレノア様!」
「うん!!」

 神官長は捕らえられ、教会は解体されることになった。

 虐げてきた孤児の聖女たちは王家の元に保護され、療養をしている。モナやラミも回復していっているようだった。

 エミリアは修道院に送られることになり、監視下の元、生涯幽閉されることになった。バーンズ侯爵家も取り潰しになり、教会と通じていたエミリアの父も幽閉された。

 教会に偽物を掴まされていた貴族たちは王家派に回り、証拠の聖水をこぞって提出した。公爵家のオーガストと王家のエレノアの証言により罪状を定め、神官長をはじめ神官たちは刑に処される。

 今回の騒動は教会信者たちにも激震が走ったが、王家の発表とサンダース商会の証言によって、一人の聖女の存在が明らかになった。その聖女こそが国の希望だと皆思ったが、それはまだ少し先の話になる。

「エレノア、ここにいたのか」
「ザーク様」

 カーメレン公爵家に帰ると、ジョージを始めとした使用人たちが皆涙を流して喜んでくれた。皆、心配してくれていたのだ。

 手当を受け、温かい食事を受けたエレノアは、離れの中庭にやって来ていた。ミモザはすっかり散って、緑の葉だけが残っている。

「ザーク様、助けに来てくれてありがとうございました」
「いや、俺こそ遅くなってすまなかった」

 エレノアは立ち上がって改めてお礼を言う。

「傷まないか?」

 イザークは手当されたエレノアの頬にそっと触れるように距離を縮めた。

 思えばイザークとは喧嘩別れして以来だった。少し気まずい空気が二人の間に流れる。

「そうだ、これ……」

 その空気を割くようにイザークがエレノアの指にそっと指輪を通した。

「これ……」

 エミリアに奪われた指輪。エレノアの指に戻って来た。

「俺が戻って来るまでと言ったが、叶うなら、一生、その指に許して欲しい」

 イザークの真剣な表情にエレノアの胸が跳ねる。

「エレノア、俺は君を手放すなんてやっぱり出来ない」

 優しい風が二人の間を通り抜け、エレノアの頬をかすめていった。