神官長の言葉に、エレノアは観念した。

 カーメレン公爵家に呼び出された時。

 女将さんを人質に取られるくらいなら、教会に戻る、と决意をした。でも。

(怖い。行きたくない……)

 公爵家の人たち、第一隊の騎士たち。温かい心に触れ、幸せな日々を過ごして来たエレノアは、もうそれを手放したくないと思っていた。

(教会に戻ったら最後……。地下に閉じ込められて一生搾取される)

 エレノアは震える足を一歩ずつ前にやる。

「わかり、ました……。だから、私以外の人には一切手を出さないでください」
「エレノア様!!」

 女将一人ならもしかしたらカーメレン公爵家の私兵が何とかしてくれるかもしれない。でも、聖水に関わってしまったマルシャとサンダース夫妻、捕らえられ、危害を加えられるかもしれないサミュとエマ。そしてイザークの命はエミリアの手中だ。

エレノアには抱えきれない大切な人たちがいた。

「良いでしょう」

 エレノアの意図を汲み取り、神官長がサミュの捕縛を解くよう手で合図すると、サミュは第二隊から開放される。

「エレノア様!」
「来ないで!! お願い、サミュ、皆を守って」

 駆け寄ろうとしたサミュをエレノアが叫んで制した。サミュは狼狽えた表情でエレノアを見ると、拳を握りしめ俯いた。

「私は一緒に行きます!!」
「エマ?!」

 エマがエレノアの横に立ち、神官長の前に出る。

 エマの美しい顔立ちに、神官長は下衆な笑いを向けた。

「良いでしょう。カーメレン公爵家のメイド、ですか。私のメイドになると言うのなら連れて行きましょう」
「だめだよ!!」

 気持ちの悪い神官長の言葉に、エレノアは全力でエマを止めようとした。

「……わかりました。毎日エレノア様に面会させていだけるなら、あなたのメイドとなりましょう」

 しかしエマは譲らなかった。

 エレノアとエマは第二隊に拘束され、教会へと連れられることになった。