「エレノア様、サミュが訪ねて来ております」

 翌朝。寝不足で頭が働かないエレノアは、ぼんやりと用意された朝食を食べていた。

「サミュが?」

 ぼんやりとしながらも、どうしたんだろう?とサミュが通された客間へと向かう。

「エレノア様!」

 客間に到着すると、いつもの笑顔のサミュと、昨日の男の子がいた。

「あれ、君?」

 昨日は簡易的なシャツとズボンだった男の子は、今日はかっちりとしたベスト姿だ。

「こいつ、王都で有名なサンダース商会の息子らしい。エレノア様に会いたいって言うから連れて来ました」
「サンダース商会?」

 サミュが驚いた表情で説明するも、世間を知らないエレノアにはさっぱりわからない。

「イザーク様やエレノア様もよくハンドクリームを購入されているかと……」
「え? 決まったお店は無いよ?」
「それら全て、サンダース商会です」
「ええええ?!」

 イザークはどうかわからないが、エレノアは目に止まったお店に立ち寄る。その一つ一つが全てサンダース商会だとエマは言う。

「そんな大きな商会の息子だった、というわけだ」

 未だ驚きながら説明するサミュだが、エレノアは別に聞きたいことがあった。

「お母様の具合はどう?」

 心配そうに聞いたエレノアに、男の子は満面の笑みで「治ったよ!」と答えた。

「良かった……」

 安堵するエレノアに、男の子が嬉しそうに話す。

「俺の名前は、マルシャ・サンダース! お姉さんは?」
「私はエレノアよ。よろしくね」
「エレノア……! そうか。俺が大きくなったら俺のお嫁さんにしてやるよ!!」
「ええええ?!」「はあああ?!」 

 自己紹介したエレノアに瞳を輝かせてマルシャが言うので、エレノアは驚いてしまう。サミュも変な声を出していた。

「いやいやいやいや、エレノア様は団長の奥さんだから!」
「サミュ、子供の言うことなんだから……」

 真剣に返すサミュにエレノアが苦笑いしながら宥めると、サミュは「いーや!」と言う。

「子供でも男は男です! 良いか、団長に殺されたくなきゃ諦めることだ!」

 ビシッ、とマルシャに向かってサミュが言い放つと、マルシャは子供らしい笑顔で答える。

「そっかあ、残念。まあ、そのダンチョーさんが嫌になったら、いつでも俺の所に来て?」
「はは……」

 子供らしからぬマルシャの台詞に、エレノアは思わず苦笑した。

「それで、今日はプロポーズに来たんですか?」

 今までのやり取りを動ぜず見守っていたエマが本題に入る。

「あ、そうだ! 母ちゃんが良くなったお祝いをするんだ! エレノアも連れておいでって、父ちゃんと母ちゃんが!」