「……なにひてるんれふか」

 休日の昼下がり、のんびり過ごしていた彼女の部屋のソファにて。名前を呼ばれ顔を向けたら、いきなり両頬を細い指先で掴まれて。そのまま皮膚の感触をたしかめるようにふにふにと揉まれたから、さすがに気になって訊ねてみる。
 なぜか神妙な面持ちの柊華(しゅうか)さんが、俺の頬をつまむ手を離さないままに答えた。

「あのね、表情筋をあまり動かさない人は、ほっぺたがやわらかいって聞いて。大智(だいち)くんもそうなのかなって思って確かめてるんだけど……正直よくわからないなあ……」

 後半はほとんどひとり言のようにつぶやき、柊華さんはなおもふにふにと俺の頬を揉んでいる。
 力がこもってないから痛くはないし柊華さんが触ってくれるのならいくらでもどうぞという感じなのだが、正直少し飽きてきた。
 なので。

「俺も触っていいですか?」
「えっ」

 一応疑問形にはしたけれど返事は待たず、こちらからも彼女の頬に触れる。ただし、色気のない柊華さんの触り方とは違って、それはもうハッキリと“そういう雰囲気”を匂わせるやり方で。
 羽が触れるみたいなやわらかいタッチで、輪郭を撫でた。みずみずしい桜色の唇を、親指でふに、と押す。彼女の頬が、わかりやすく赤く色付いた。

「う……大智くん、あの、降参です……」

 いつの間に勝負になっていたのか。彼女は照れた様子でつぶやくと、そろりと俺の顔から手を離す。
 だけどこちらは、逃がすつもりなんてない。

「俺はまだ、満足してませんよ」

 そう無情に言い放った俺は、もしかしたら笑っていたかもしれない。
 そうしてどこもかしこもやわらかな彼女の体を堪能すべく、手始めに薄く開いた甘い唇に噛みついた。