「行ってきます。」
学校に行く前、挨拶をする。
「いってらしゃい。」の声は聞こえてこない。
当たり前だ。誰もいないのだから。
私、紅蘭 鈴 (こうらん すず)は父親と二人暮らしだ。
でも、必ず父は朝、家にいない。
もう慣れてしまった。
そんな私の父は何をしているのかというと、女遊びだ。
だらしない父を見て育ったせいか曲がったことが大っ嫌いの大真面目の人間になってしまった。
悪い女に、金を取られてまでも女に縋る。
たまに家に帰ってきても女の人の香水がした。
父が家にいないのは小さい頃からだった。
私が幼稚園ぐらいのときはまだ家族仲良く出かけてたりしていた。
なのにいつの間にか父は家にいない日が増えて、
当時、まだ小学生だった私は父が毎晩家を出る理由も何も分からなくて、
でも、母がそれを見て悲しい顔をするたびに私も悲しくなっていた。
どうしてお父さんは家にいてくれないの?
どうしてお母さんはそんな悲しい顔をしているの?
そんな疑問を小学生ながらに考えていた。
そんなだらしないお父さんにお母さんは限界がきたらしく、小学生2年生の私を連れて家を出た。
あの時のお母さんの顔は今でも忘れられない。
それからはアパートで二人の生活だった。
母はしっかりしていて私を厳しく、時には優しく育ててくれた。
でも中学1年生の冬、お母さんが病気で亡くなった。