依織さんとファーストキスしてから、なんだかフワフワ夢心地だった。

 前から可愛かった依織さんがますます可愛く見えて、ますます愛おしくなった。

 キスしたって誰かに自慢したいような衝動があったけど、伊月くんにも言えなかった。依織さんが嫌がるといけないから。それに、自慢するのもなんか違う気がした。自慢するために依織さんと付き合ったわけでもキスしたわけでもないんだから。

 でも、伊月くんに隠し事をしているようで気が引けた。伊月くんも失恋したこと僕に言わなかったし、こうして僕らは隠し事も増えてバラバラになっていくんだろうか。

 そう思うとなんだか寂しかった。

「あ、依織さ……」

 廊下を歩いていると依織さんを見つけて、声をかけようとして立ち止まった。

 依織さんの隣に、見慣れない女の子が立っていた。

 女子にしては背が高くて、天然なのか色素の薄いクルクルっとしたショートヘアの子。もしかしたら、文芸部仲間の子かもしれない。

 その子が依織さんの腕に抱き着いて、隠れるように体を丸めて窓の外を見ていた。

 時折、依織さんと言葉を交わしながら楽し気にしている。依織さんは何度か窓の外を指差していて、その子は窓の外を見ては依織さんの陰に隠れて、恥ずかしそうにきゃあきゃあ騒ぎながらなんだか楽しそうだった。

 依織さんが指差す方向を見ると、なぜかサッカー部に混ざって伊月くんがボールを蹴って独走しているところだった。

 依織さんの隣の子は、伊月くんを見ていた。

 涙の膜が張った、あのうるんだ目。昨日、僕を見つめてきた依織さんの目と同じだった。

 ――あの子、伊月くんのことが好きなんだ。