予算の都合とか諸々もあって、楓さんへの結婚祝いは青い鳥のアイシングクッキーになった。

 個包装で日持ちもするし、つわりも落ち着いてるなら食べられるかなって思う。渡すのは伊月くんに任せて、僕はお祝いのメッセージだけ書いた。

 サムシングブルーとはちょっと違ってしまったけど、まあ食べて消化されれば体の一部だし、体の一部となって隠れた青色として活躍してもらえばサムシングブルーだろう。

「伊月くん、元気になってよかったね」

 その時に買った少量パック版のクッキーを公園で依織さんと食べていると、また伊月くんの話題になる。

 前にも伊月くんの髪の毛の話もしていたし、恋人から別の男の話が出るとちょっとヤキモチを焼きそうになる。

「ずっと心配してたでしょ」

「え、そうかな?」

 違う。僕の話だった。

 気にかけていてくれたことと誤解してヤキモチ焼きそうになっていたことが恥ずかしくて、耳が熱くなる。

「それよりもさ、今度どこ行く?」

 今日も公園デートだし、中学生のお小遣いじゃなかなかデートらしいデートは行けない。でも、もうすぐ小遣い支給日だから出かけられる。

 親の金でデートとか男として恥ずかしくないのかって伊月くんなら言いそうだけど、中学生じゃバイトも出来ないし仕方がない。高校はアルバイトOKなところにしよう。たくさん働いていっぱいデートに――あ、でもたくさん働くとデートの時間なくなるな。塾だってあるし、タスク管理能力を上げないとなかなか厳しいかもしれない、高校生活。

「水族館行きたいな」

「いいね! 行こう行こう」

「楽しみ」

 微笑んで、依織さんがクッキーを口に運ぶ。パキッとクッキーが折れて、依織さんの口に吸い込まれていく。僕の視線も吸い込まれていく。

 咀嚼する唇の動きに目が奪われて、生唾を飲み込んだ。

 僕の視線に気づいた依織さんと目が合う。少し恥ずかしそうに眼が泳いだけど、顔は背けられなかった。クッキーのせいなのか、空気が甘い気がした。

 ベンチに二人腰かけて、距離は近い。公園には、僕ら二人しかいない。これはもしかして、そういう雰囲気じゃないだろうか。

 呼吸が荒くなりそうだった。でもそれを必死に抑えて、浅く浅く息をする。

 依織さんの肩に手をかけて、ぐっと体を近づける。うるんだ瞳と目が合った。更に距離を縮めると、長いまつ毛に縁どられた瞼が下りる―――――依織さんの唇は、甘いクッキーの味がした。