先輩の『かわいい』の意味

 ……だけど。

「いや、違う。彼女は『かわいい』後輩だ。間違ってはいないだろう?」

 黒瀬先輩のその言葉で、期待で膨らみかけた胸がプシュッと音を立ててしぼんだ気がした。

「ホントにそれだけか?」
「……当然だ」
「どうだか」

 体育委員の先輩は、肩をすくめてみせる。

 ……そう、だよね。やっぱり黒瀬先輩にとって、私はただの後輩でしかないんだよ。

「それより、勝手にお題を奪うな」
「しょうがないだろー、お題の確認は体育委員の仕事なんだから」
「……」

 黒瀬先輩はぐっと押し黙って、不満げな表情になる。

 勝ち誇った顔をした体育委員の先輩は、ちらっと私の方を見た。

 私の表情から私の気持ちを察したのか、やれやれといった様子でため息をついた。

「ちゃんとこの子には、正直に言ってやれよ」

「……余計なお世話だ」

「はいはい……っと、やっべ、次の人が来たわ。じゃーな!」

 先輩はそう言うと、ひらっと手を振って走っていってしまった。
「君も、頑張ってね。あいつはかなり強敵だから」
 すれ違いざまに、そう言ってぽんと私の肩に手を置いて。