先輩の『かわいい』の意味

「……本当は、お題を見たときに真っ先に頭に浮かんだのが白木だったんだ」

 先輩はそう、ぼそっと言った。

「え? それって、どういう……」

 私が戸惑いながら言うと、先輩は赤い顔で、それでも私を見ながら、言葉を続けた。

「いつも元気に挨拶しながら美術室に入ってくるところも、熱心に絵を描いているところも、かわいいと思っている。……それに、いつもは下ろしてる髪を今日は珍しく結んでいるところも、かわいいと思って――」

 話しながら私の方へと手を伸ばしかけた先輩は、そこまで言ってはっと我に返ったように手を引っ込めた。

「……すまない、忘れてくれ」

 そう言って、赤くなった顔を背けるようにそっぽを向く先輩。

 え、さっきの手、なんだったんですか!?

 っていうか、そんなこと言われたって、忘れられるわけないじゃないですか……!

 私の顔も、見えないけどきっと先輩と同じくらいに真っ赤だよ!

 でも……うれしいな、いつもはそんなこと言わない先輩が、こんなこと言ってくれて。

 やっぱり、体育祭のこの特殊な空気のおかげかな?

「私も好きです! 先輩の真面目で優しいところも、絵を描いているときの手つきも真剣なまなざしも、普段無表情な顔をふっとほころばせて笑うところも。あと、今日のクラスTシャツ、先輩の落ち着いた雰囲気によく合ってると思います!」

「ああ、ありがとう……ん? ちょっと待て白木。それってどういう……」

 珍しく動揺したような先輩を見て、私は思わずフフッと笑った。

「内緒です!」

 私が先輩に好きって思ってもらえるまでの、ね。