「麻里・・・」

その時の私は困ったような顔をしていたんだろう。

「なあ陽菜。そんなに俺と一緒に帰るのが嫌なのかよ」

斗真が少し不貞腐れてわざと私から目線を外し、先に歩き出す。

私は斗真の半歩後ろを歩き、斗真の背中に向かって返事をした。

「斗真と一緒に帰りたくないなんて、そんな事ないよ。ただね、麻里に相談って言うか報告したいことがあったからさ。それだけだよ」

「その話って守谷のことだろ? 俺が聞くのじゃダメなのか? 俺ってそんなに陽菜から信用されてないのか」

やっぱり斗真が不機嫌だから守谷くんのことを言い難い。

「斗真のこと信用しているし、話も聞いて欲しいと思ってるよ。でもさ、昨日から斗真は不機嫌じゃない。私なにかしちゃった?」

斗真は私の言葉を聞いて、歩いている足を止め私の方に振り向いた。

「まずは陽菜、俺の隣を歩けよ。俺の後ろにいたら話ができないだろ。それと、俺が不機嫌なのは・・・さ」

斗真はそこまで言うと次の言葉を飲み込んだ。

「どうしてそんなに不機嫌なの?」

私は斗真の不機嫌な理由が知りたくて、斗真からの次の言葉を催促したんだけど。

「そもそも。陽菜が守谷に即答で断らないからだろ。なんで返事を保留してんだよ」

「へっ? そこ? 守谷くんへ返事していないことが斗真は気に入らないの?」

斗真は止めていた足をまた動き出す。

さっき斗真に言われたから私も斗真から遅れないように斗真の横に並んで歩いたのに、斗真が私とは反対側に顔を背けてしまった。

「ねえ、斗真ってば」

私が斗真の顔を覗こうとしたら、斗真が手のひらで私の頬をギュッと押して斗真の表情を見れなくした。

それでも一瞬見た斗真の顔は赤くなっていたような気がしたんだ。

「もう、何なのよ斗真。いいよ、本当は麻里に先に言おうと思ってたんだけど、斗真に話すね。だからこの斗真の手を私の顔からどけてくれないかな」

斗真が渋々手を引っ込めてくれたから斗真の表情を確認したんだけど。

斗真の顔、赤くなんてなってなかった。