古典の先生が教科書を読み始めた瞬間、生徒たちは集団で催眠術にかかったように一斉に眠る。
今日の授業も1人、2人と眠りに落ちて行く。
私は周りの席の子たちが教科書を見ている振りをして寝ているのを確認してから古典の教科書に挟まっていたルーズリーフをそっと開いた。
【羽瀬さん、今度の日曜日一緒に遊園地に行きませんか? 返事は俺のラインによろしく。守谷隼人 ラインID ******】
これって?
えっと、 私デートに誘われてるの?
しかもあの守谷隼人くんに?
ありえないよ。
守谷くんからのメッセージについて考え事をしていたから、起きていたのに古典の授業は皆と同じように全く聞いていなかった。
この手紙のことを早く麻里に言いたい。
どうしたらいいのか相談したいよ。
そう思いながら守谷くんの手紙から目線を私の席よりも前の方に座っている麻里の背中に向けた。
すると、麻里の席から一つ後ろの席に座っている斗真が私の方を振り返って見ていたものだから、斗真と目が合った。
なんで授業中に後ろを向いているのよ、斗真。
斗真が見ている先に何かがあるのかと思って私も後ろを振り返って見てみる。
そこには見事に熟睡しているクラスメイト達しかいない。
何も変わったものなんて無いじゃない。
私は再度斗真を見て、口パクで斗真に話し掛けた。
『な・に・み・て・ん・の?』
すると斗真も私に口パクで返してくる。
『な・に・み・て・ん・だ・よ』
多分、斗真はそう言ったんだと思うんだけど。
別に斗真を見たくてそっちを見たんじゃないもん。
『べ・つ・に』
私がそう返すと斗真は開いた教科書を持ち出して、ココ、と教科書を指さしている。
私は何のことか分からず自分の教科書に目線を移す。
あっ。
守谷くんからの手紙のこと?
私は守谷くんからの手紙をサッと隠し、斗真から目を逸らした。
まだ何か言いたそうにしている斗真を古典の先生が注意したから、斗真は渋々体を前に向けた。
斗真にバレずに手紙のことはどうにか誤魔化せたかな。
古典の授業が終わった瞬間、私は麻里のところへダッシュして有無を言わさず麻里を廊下に引っ張り出した。
「どっ、どうした陽菜?!」
「麻里、聞いて聞いて聞いて!!!大事件なのっ」
長距離を走った訳でも無いのに私はハアハアしながら麻里に守谷くんからの手紙を見せると、渡した手紙を読んだ麻里はとても驚いて、
「うっそーー。これマジ? これ陽菜に・・・だよねぇ」
麻里は手紙を裏返したり光に透かしたりしている。
「う、うん。昨日貸した教科書の間に挟まってたの。麻里、どうしよう」
私と麻里が廊下でキャーキャー騒いでいる所へいつの間にか斗真が近付いて来て、麻里の手からひょいっと手紙を取った。
「ん-? なになに? 羽瀬さん、今度の日曜・・・・」
斗真は最初こそ声に出して読み上げようとしたけど、読んでいる途中から無言になり黙読している。
「ちょっと斗真! それ返して。勝手に読まないでよ!」
私は必死になって斗真からその手紙を奪い取った。
斗真は何か言うかな。
ううん、斗真は私のことなんて友達としか思っていないんだから意見なんてないか。
「陽菜、なんだよこれ」
昨日から斗真は終始不機嫌。
「なんだよって言われてもさ。ねえ、麻里」
私は苦し紛れに麻里に話を振った。
「斗真、あんたが騒ぐことじゃないでしょ。これは陽菜が生まれて初めてもらったラブレターなの。やっと陽菜にも彼氏ができるかもなんだよ」
生まれて初めてって・・・、合ってるけどさ。
「それは、そうだけど。でもこれは信じがたいな。守谷からだろ、ありえねーだろ。陽菜とどんな接点があんだよ」
斗真少しは心配してくれてるのかな。
私だってあの守谷隼人くんがこんな手紙をくれるなんて信じられないもん。
「で、陽菜は返事すんのかよ。なんて返事すんだよ」
どこまでも不機嫌な斗真。
「返事、どうしよう。突然すぎて良く分からなかったから麻里に相談したっかったんだもん」
「麻里だけじゃなくて俺にも相談しろよ、陽菜」
斗真に相談なんて出来るわけない。
本当は斗真に知られたくなかったのに。
「返事は直ぐじゃなくてもいいんじゃない? 日曜日までまだ何日もあるし。よく考えたらいいよ、陽菜」
そうだね、麻里の言う通り少し考えよう。
でも私は返事するしない以前に守谷くんのラインを登録してもいいのかすら悩んでいる。
「うん、そうするね。ありがとう麻里。またあとで相談に乗ってね」
「もちろんだよ、陽菜。さて私はこっちの不機嫌な斗真の話を聞いてくるから。陽菜はちょっと待っててね」
麻里はそう言うと斗真を連れて私の前から居なくなった。
やっぱりそうなんだよね。
麻里と斗真はお互い想い合ってる。
今みたいに時々2人で話しているし、それは私には全然伝わって来ないんだもん。
入学式の時から感じていたこと。
どうして斗真と麻里はお付き合いをしないんだろう。
もしかしたら私が2人の邪魔をしているのかもしれない。
私がしっかりすれば安心してお付き合いを始めるのかな。