斗真との出会いは高校の入学式の日。

自分の名前とクラスを確認して、初めて入った教室。

同じ中学から来た子がいなかったから知り合いが1人もいなくて心細かった。

早い時間に学校に来ていた子たちはそれぞれの席の前後や左右の人と仲良く話をしていて、私は少し出遅れてしまったの。

誰とも会話することなく自分の席に座り、俯いていたんだ。

そんな時、隣の席に私よりも少し遅れて座った人。

女の子だったら頑張って私から話し掛けてみようと決意して隣の席に座った人を見たら、その人と目が合った。

あ、男の子だ。

私はその人に小さく会釈してまた顔を正面に向ける。

すると、その男の子は私の方を見て

「おはよう。俺、東中から来た鈴鹿斗真(すずか とうま)。今日からよろしくな」

まさか挨拶されて自己紹介までしてくれると思っていなかったから、再度その人を改めて見た。

髪は短めにカットしていてサラサラと動き、光に当たると少し緑かかる目。

かっこいいとかわいいが半分ずつ混載されている顔は、モテるんだろうな、そう思わせる。

その少し幼さが残っているのに精悍な顔で微笑まれたら誰もがドキッとするんじゃないかな。

もちろん私もその男の子に目を奪われた。

「ね、名前。名前なに?」

あ、そうだよね。

この人に見とれてた。

私も挨拶しなきゃ失礼だよね。

「えっと、私は羽瀬陽菜(はせ ひな)です。よ、よろしくお願いします」

ちゃんと挨拶できたよね? おかしくなかったよね?

すると鈴鹿くんが笑い出した。

「ははっ、そんな固くなるなよ。俺ら同い年だろ。何緊張してんだよ」

もしかして鈴鹿くんは私の緊張をほぐしてくれようとしている?

「うっ、うん。そうだね。声掛けてくれてありがとう。私、同中が一人も居ないから緊張しちゃってて」

鈴鹿くんはうんうん、と頷くと急に大声で誰かを呼んだ。

「麻里! ちょっとこっち来て」

鈴鹿くんが呼んだ麻里さんと言う人が前の方の席から私たちのところへやって来て、

「なによ、斗真。ってか斗真と同じクラスなんだ。うるさいクラスになりそうだー。ねぇ、そう思わない?」

麻里さんは初めて話す私に対して意見の同意を求めてきた。

でもね、私は鈴鹿くんのことも麻里さんのことも知らないの。

麻里さんに返事できずに固まっていると、

「こいつ、俺と同中の麻里っていうの。えっと羽瀬さんだっけ? 麻里と仲良くしてやってよ、ね」

鈴鹿くんが麻里さんを紹介してくれたんだ。

どっちかって言ったら私の方からよろしくしなきゃダメじゃん。

「私、羽瀬陽菜って言います。麻里さん、よろしくお願いします」

私は座っていた椅子から立ち上がり、麻里さんに向かって深々とお辞儀をした。

「やだ、私達同い年じゃん。そんな緊張しないでよ」

麻里さんが鈴鹿くんと全く同じことを言ったから少し驚いた。

もしかして、この2人って。

私が驚いた顔で2人を交互に見たら、2人が同時に

「「いや、違うから」」

って声が揃って、しかも顔の前で手を振る仕草も同じ。

いや、違わないと思うな。

声に出しては言わなかったけど、心の中でこの2人はお付き合いをしている仲なのか、お互いが告白前の片想い中なのか、どちらかだなって思ったの。

それから私と麻里さんは仲良くなって、自然と鈴鹿くんとも喋るようになっていったの。

麻里さんのことは麻里と呼ぶようになり、鈴鹿くんのことはいつからか斗真と呼ぶようになっていって。

一人ぼっちだった入学式から2年が過ぎ、高校3年生でも3人は同じクラスになれたから私はとっても幸せだった。