毎日のようにあった襲撃が止んで、ひと月になる。
私たちはちゃぶ台を囲んでノートと参考書を広げていた。
「ヒマぁ」
「運動不足だ!」
「誰でもいいから遊びに来てくれないかなぁ」
「座学は飽きた! 実技だ! 実戦だ!」
かたやペンを指先でもてあそびながら、かたや積み上げた参考書で指先の筋トレをしながら。
好戦的な二人がそれを言うようになって、ひと月になる。
現在進行形で甘い香り漂わせる、キッチンの主たる先輩曰く。
「人を蹴落とそうとするバカ共は、今の時期、筆記試験の勉強に忙しいんだよ」
だそうで、私も追い込み勉強真っ最中なのだ。
同盟者たちは余裕そうですね、いいですね、英才教育の賜物ですね。
いつもなら暇暇大合唱、ついには大乱闘が始まるのだが、今日は違った。
「来てくれないならこっちから行こうかなぁ」
「待つのは飽きた!」
「仕掛けてきたらいいじゃん。その間、ボクは響と愛を確かめ合うから」
今にも飛び出していきそうな雷地と常磐に、柚珠が響に抱きつきながら手をしっしっと振る。
「柚珠がそんな事言うなんて珍しいねぇ」
「ワハハッ! 今日は槍でも降るのか!」
「はぁ? 馬鹿言わないで。響はここにいるんだもん。アンタ達とつるむより、響といる方を選ぶに決まってるじゃん?」
「………離れて」
「ああん。素直じゃない響もかぁいいっ」
「ぁっ、ん。………や、め…………」
日を追うごとに、桃木野柚珠のスキンシップは派手になった。
押し返す響も、まんざらではなさそうで抵抗は弱い。
それも、長い時間をかけてギリギリを攻め続け、時に超過し後退しながらも攻め続けた柚珠の執念の結果だ。
流され続けた響の諦めの結果ともいえる。
仲良きことは美しきかなだよ。
夜這いの騒々しさも消えて万々歳だよ。
でもさ、人前でちちくりあうのはやめていただきたい。
そこまで堂々としていいとは言っていない。
公序良俗がうんぬんかんぬんごにょごにょ………。
「幼馴染で男同士のそんなとこ、見せられる俺らの身にもなってよ」
雷地よ、よく言った。
私は心の中でガッツポーズ。
もっと言えと念を送る。
「見せつけてるの。ボクの響はこんなにも可愛いんだから」
「ハハッ! 響は知らなけれ女子に見えるな!」
「見るな変態」
「隠せ変態!」
「離して変態……!」
「変、態。シャキーン! ワハハハッ!」
変態という単語だけで、小学生男子のようにはしゃぐ同盟者たち。
これだけ見ると、普通の高校生のようだ。
しかし、今ではない。
念は届かなかった。
「うるさい、集中できない、わからない…………」
私は突っ伏して、頭を掻きむしる。
参考書の、これ、なに。
文字は読めるけど意味が全く入ってこない。
その時、キッチンの方から漂う甘い香りが強くなった。
「てめえらは相変わらずだな」


