「杏ちゃん」
毎日のように名前を呼んだ。
臆病な俺は、あの頃のように呼び捨てをする勇気なんか持てない。
「っ…」
簡単に組み敷かれて、涙流して…。
…あーあ。
それ、俺が好きな顔。
杏ちゃんのくせに生意気だよ。
俺を嫌いになるなんて、100年はやい。
「あっ……あたしは、もう、かすみくんのことなんか好きにならないっ…」
──ムカつく。
”かすみくん”なんて呼ぶ声。
虚勢を張った姿。
ぜんぶ、嫌い。
杏なんて、ずっと俺のことを好きでいればよかったのに。
「…杏ちゃん、俺が好きだって言ったら、どうすんの?」
柄にもなく、焦ってたんだと思う。
知ってた。
杏が他の男に色目使うようになったのは、俺への仕返し。
それでも。
杏が奪われそうになってるの見過ごせるほど、俺は優しくない。