「見ろよ、保健室の天使だ」





──良く言われたものだ。




廊下を歩くだけでそんなあだ名で呼ばれて、あたしは肩を震わせる。




甘野杏(アマノ アン)。
あたしにはちゃんとした名前があるのに。




その由来は、この顔立ちと保健委員という役職にある。



なぜか先生からお墨付きを頂いたあたしは、放課後の保健室を任されてる。




たまに友達から遊びに誘われる意外は、基本保健室に居座り、怪我人の手当をしている。





天使だなんて言われる筋合いない。
人より顔立ちはいいほうだと思う。
両親も顔が整ってるし、お姉ちゃんなんか読者モデルを務めるほどだ。




はじめの頃は、“天使”だなんて呼ばれて嬉しくも恥ずかしくもあった。




…でも今は、億劫で仕方ない。
どこが天使? それを言葉で説明できる人はどれくらいいるんだろう。





だからあたしは、小悪魔になることを決めた。
天使なんかじゃない、人々を惑わせる、小悪魔に。