「お前の顔は醜いのだから、麻袋をかぶって隠しておきなさい」

 奴隷は私の言葉に少し傷ついたような顔をしたが、素直に渡した仮面を手に取った。

 私が奴隷に出会ったのは、お忍びで城下に出た日。
 王都に入ることを許されただけあって、その奴隷商は高級商人で、見目好い奴隷ばかりを扱っていた。
 奴隷らは、姿かたちが良いだけではなく、所作も美しい。おそらく、敗戦国の貴族だろう。
 ガラスの檻の中で、見世物にされる高貴だった人々。
 奴隷には、女性と子どもしかいなかった。男性はことごとく殺されたのだろうということは、幼い私は思いつかなかった。
 奴隷らは自分たちの立場を知っているのか、立派な身なりなのにおどおどとしていた。
 父に継母に、継母の産んだ弟妹らは、ガラスの檻が空っぽになる勢いで、何体もこの奴隷商から奴隷を買った。
 他の上位貴族も次々と奴隷を買い込み、一体だけが残った。
 さすが残り物だけあって、見目好いとはいえなかった。髪の毛はところどころ抜け落ちて、頬は痩せこけて黒ずんでいる。乾いた目は灰色に濁っている。
 商人が「残った奴隷は始末が面倒なんでさあ。使用人にするにも、元貴族は使いづらくてねえ」と言うのが聞こえた。
 どうせ始末するのなら、私が好きなようにいたぶっても同じことだと思い、買うことにした。