「え~コサインの微分のいろいろな証明方法として、 導関数の定義があります。」
教室の中は、教員の声とチョークの音しか聞こえなかった。
「わかんね~。」
「え、何が?」
「微分って、なに?」
「え~。」後ろの席から、そんな言葉が漏れてくる。
「では彷徨、例1の問題を。」
「はい、x^2 + 3x - 7 = 0の導関数の定義は……」
俺は、中本さんのことを考えながら、授業を受けていた。
(ああ……中本さん……)
すると突如周りの景色が歪み、俺はまるで夢を見ているような錯覚に陥った。
……あれ?どうしたんだろう……
そして彷徨の意識は失ってしまった。

俺は、気がつくと見知らぬ場所にいた。
(ここは……どこだ?)
周りは白いベッドが複数あり、カーテンが閉まっていた。
そして俺は、そこで寝ていたようだ。
(確か……数Ⅱの授業中だったはず……)
俺は、さっきまでのことを思い出そうとするが、頭がぼんやりしてうまく思い出せない。
(あれ……なんでだろう……)
そして彷徨は思い出した。授業中に倒れたことを。
(ああ……そうか、俺倒れちゃったんだ……)
「彷徨!!!大丈夫か!?」
すると、カーテンが開きそこには両親の姿があった。
「うん、大丈夫。」
「そうか……よかった……」
俺の両親は安堵の表情を浮かべた。
「ねえ、俺……どうなったの?」
すると両親は一気に顔色を暗くした。
そして、母親は俺のそばに来ると、優しく頭を撫でた。
「あなたは、授業中に倒れたの。だから心配したのよ?もう……ほんとに……」
母親は目に涙を溜めてそう話した。そして父親は俺の肩に手を置き、優しい表情で俺を見つめた。
「彷徨……お前はライソゾーム病という病気で倒れたんだ。」
「え……?」
俺は、父親から衝撃的な言葉を耳にした。
ライソゾーム病……それは、10万人に1人という確率で発病する、難病。その病気の特徴は、細胞が異常な形をしていること。そして臓器に炎症が起こり、最悪の場合死に至るという。この病気には治療法があり、早期発見と適切な治療を行えば完治すると言われている。
だが、この病気は今の医療技術で治療法を確立することは難しく、また発見しにくいため治療が遅れている。
俺はその事実を知り、目の前が真っ暗になった……
(俺が……ライソゾーム病……?)
そして彷徨は絶望した。もう自分は長く生きられないのだと悟ったからだ。
気がつくと俺の目からツウっと涙が流れていた。
「彷徨……大丈夫?」
母親が、優しく俺の背中をさする。俺は声を出さずにただ涙を流していた。
「大丈夫だぞ……彷徨……」
父親も俺に優しい言葉をかけるが、その目は潤んでいた。
(ああ……もう自分は長くないのだろうか?)
そんな思いが頭をよぎった時、俺は両親に尋ねた。
「ねえ……俺ってあとどれくらい生きられるの?」
すると母親は目に涙を浮かべながら答えた。
「……1年………」
「へ?」
「あなたの余命は……あと1年なの……」
「え…………」
俺は、あまりのショックに言葉を失った。
「……嘘でしょ?………」
俺は納得がいかず無理矢理笑いながらいった。そうまるで冗談のように。
「嘘だよね……お母さん……」
「彷徨……これが現実だ。」
父親にそう言われると、俺は再び絶望の淵に落とされた。
「そっ……か……」
そして俺は、そのまましばらく泣き続けた。両親も涙をこらえているようだった。
(ああ……俺死ぬんだ……)
そう思うと涙が止まらなかった。もうあの世界には戻れないと思うと悲しくてたまらなかったのだ。
「彷徨……」
すると、母親が俺の体を優しく抱きしめた。
「お母さん……?」
俺は顔をあげて母親の顔を見た。母親は目に涙を溜めながら微笑んでいた。
「大丈夫だから……安心してね?」
そして、彼女は俺に向かってこう言ったのだ。
「あなたは私が守るから……」と……
(ああ……お母さん……)
俺は母親の腕の中で再び泣いたのだった。そして決意したのだった。この世界で生きるために抗おうと……
……………….