「覚えてますけど……」
「あれは狼の血が出てきた合図だ。俺は、本能に逆らうことが難しくなってた」
「満月だったからですか?」
その質問に大和はうなづく。
千明はため息をついて「そんなの信じません。満月のせいにしているだけですよね?」と強く言い放つ。
「満月の夜だけじゃない。欲情したときも自分を忘れるときがある。そうやって、好きな人を傷つけてしまったことも何度もあるんだ」
大和の声も表情も真剣そのものだった。
「だから、怖くなったんだ。人を好きになるのが。好きな人と一緒にいることが」
「それが菊池さんの言い分ですか?」
千明の声が震えた。
言い訳をするにしてももっと常識的な言い訳があったはずだ。
こんな幼稚な言い訳が通用すると思われていたことが悲しかった。
昨日の夜でパーっと忘れたはずだった悲しみが、胸の奥からじわじわと湧き出してくるのを感じる。
千明は窓の外へ視線を向けたまま、その後は無言を貫き通したのだった。
「あれは狼の血が出てきた合図だ。俺は、本能に逆らうことが難しくなってた」
「満月だったからですか?」
その質問に大和はうなづく。
千明はため息をついて「そんなの信じません。満月のせいにしているだけですよね?」と強く言い放つ。
「満月の夜だけじゃない。欲情したときも自分を忘れるときがある。そうやって、好きな人を傷つけてしまったことも何度もあるんだ」
大和の声も表情も真剣そのものだった。
「だから、怖くなったんだ。人を好きになるのが。好きな人と一緒にいることが」
「それが菊池さんの言い分ですか?」
千明の声が震えた。
言い訳をするにしてももっと常識的な言い訳があったはずだ。
こんな幼稚な言い訳が通用すると思われていたことが悲しかった。
昨日の夜でパーっと忘れたはずだった悲しみが、胸の奥からじわじわと湧き出してくるのを感じる。
千明は窓の外へ視線を向けたまま、その後は無言を貫き通したのだった。



