狼上司と秘密の関係

すでになにかに感づいているのか、その表情は暗かった。
だけど千明は途中でやめることはしなかった。
覚悟を決めてここまで来たのに、途中でやめればもう二度と告白なんてできない。
そんな気がしていた。

「私……私、やっぱり菊池さんのことが好きです!」
夜の中に溶け込んでいく声。
その声は近くにいる大和には聞こえてきた。

鼓膜を震わせる心もとない、弱い声。
だけど決意を感じさせる声でもあった。
千明はギュゥと目を閉じて次に訪れる恐怖や痛みを受け止めようとしている。

その姿が儚くてか弱くて、思わず両手で抱きしめてしまいたくなった。
だけど大和はギュッと両手を拳にしてそれを耐える。
「きっと、やめておいた方がいい」

その言葉に千明はそっと目を開けた。
月明かりの下で、今にも泣き出してしまいそうな大和の顔が見えた。
その表情を見た瞬間「え?」と、声を漏らす。

どうしてあなたがそんなに泣きそうな顔をしているの?
だって今日振られる覚悟をしてきたのは私の方なのに。