幸い相手とは同じ職場で、何時くらいに帰宅するかわかっている。
「菊池さんが帰る時間まで千明も残業すればいいんじゃない?」

昼休憩中にそう助言してくれた梨江に感謝しつつ、千明はひとりで黙々と体験施設の掃除をしていた。
梨江と晋也はすでに帰っている。
ひとり残る千明を不思議そうに見ていた晋也にも、事情は説明してあった。

ふたりして私のことを応援してくれてるんだから、頑張らなきゃ。
さっき掃き掃除を終えたばかりの床は輝くほど綺麗だけれど、何度も何度も同じ場所を掃除する。
掃除のしすぎで床がすり減ってしまいそうになったとき、大和がようやく事務所から出てきた。

「大塚さん?」
ひとりで掃除をしている千明を見て丸い目を更に丸くする。
「あ、お疲れさまです」

千明はぎこちなく笑顔を作る。
「こんな時間までどうしたの? みんなもう帰ったよね?」

「はい。でも床がすごく汚れてて気になっちゃって」
どこをどう見てもピカピカの床に大和が眉を下げた。

「外はもう暗いから、一緒に駐車場まで行こうか」
「はい」
千明はホウキを握りしめて大きく頷いたのだった。