梨江が積極的になると決めた翌日。
体験教室の準備を進めながら頻繁に晋也に話しかけていた。
晋也はいつもの調子でそれに返事をする。

そこに恋愛感情があるのかどうか、傍から見ていてもよくわからなかった。
「全く鈍感なんだから」

晋也が部屋から出ていったタイミングで梨江がさっそく愚痴り始める。
普段よりも多く話しかけているけれど、仲がいいふたりだからこそ理解されない部分があるみたいだ。

「前途多難だね」
「自分は幸せだからって能天気なこと言わないでよ」

ムッとした表情で睨まれて千明は軽く舌を出す。
けれど千明だってのんびりとしているつもりはなかった。

大和がホテルを取ってくれた日以来、そういう雰囲気になったことは一度もない。
一緒に出かけても夕方になれば必ずアパートに送り届けられてしまうし、千明から誘うのも難しかった。
恋愛経験が豊富ならばこうも悩むことはなかったんだろうけれど、こればかりは仕方ないことだった。