「僕を頼ってくれて嬉しいよ。じゃあ、
さっそく診てみようか。家の中で転んでか
ら歩く時に右股関節が痛むんだね。レント
ゲンの方は特に異常なし」

 「転んだ次の日に整形外科でレントゲン
撮ったんだけど何も異常ないって。でも、
やっぱり歩く時に違和感があって、腰も」

 「なるほど。台に上がってこっちに身体
を向けて横になってみて」

 「はい」

 彼の指示通り凪紗は施術台に横たわる。
すると、嘉一は凪紗の左足を折り曲げて
右足より前に引き出した。

 これは俗に云う、「シムス体位」という
やつだろう。凪紗の身体に大判のタオルを
かけると、嘉一は右股関節の内側を押すよ
うにマッサージを始めた。

 けれど施術が始まった途端、凪紗は恥ら
いから身体を硬くする。思っていたよりも
大きな嘉一の手がビキニラインに添えられ、
圧と共にタオル越しに体温が伝わってくる。

 これはあくまで施術で、触れてくる手に
意味なんて全くないのに、『この手を知っ
ている』なんて頭の隅で思えば頬が熱くな
ってしまう。


 ぜんぶ嘉一が初めてだったのだ。

 手を繋いだのも、
 キスをしたのも、
 身体を重ねたのも。

 男の人の身体がこんなにも硬く、人肌の
温もりがこんなにも心地良いと知ったのも
嘉一だった。

 「うん。触ってみた感じも、骨に異常は
ないかな。歩く時の痛みは強い?」

 「あ、いや、えっと。そこまで痛みがあ
るわけじゃないけど、ツキンとして、骨が
擦れるみたいな違和感が」

 「なるほど」

 嘉一の声で現実に引き戻され、たどたど
しく答えると凪紗は己の邪な感情を掻き消
そうときつく目を閉じる。そんな凪紗の顔
を見たのか、見ていないのか。嘉一は股関
節の施術を終えると、凪紗を仰向けに寝か
せた。そして、足首のマッサージを始める。

 ゴキゴキと骨を解すように引っ張ったり、
足首を揺らしたりしている。

 「えっと、なんで足首?」

 そこは痛くない、と思いながら嘉一の顔
を覗いた。