「そんなドラマみたいな再会が、現実に
起こるなんて。このチャンスをふいにする
ほど、凪紗はお馬鹿さんじゃないわよね?」

 「ええっ、でも三十年も前に別れた相手
よ?何をいまさらって一蹴されるのがオチ
よ。結婚してるかも知れないし」

 「左手の薬指に印はあったの?」

 「なかったけど」

 「ちゃっかりチェックしてるじゃないの」

 果歩の突っ込みに、凪紗はぺろりと舌を
見せる。

 「本宮嘉一か。彼、イケメンなのに真面
目で物腰が柔らかで、いい男だったわよね。
意味不明なこと言って離れていっちゃった
けど、お互い嫌いで別れた訳じゃないんだ
し。接骨院の院長となった元カレとの再会
ラブ。ああ、想像したらなんだかワクワク
してきちゃった」

 なぜか勝手に話を進めている果歩に凪紗
は、いやいや、と首を振る。

 「再会したのはひと月も前だし、それか
ら会ってないし。再会ラブはありえません」

 顔の前で人差し指を交差し、バツマーク
を作る。

 「どーしてよぉ。別れてからずっと引き
ずってたじゃないの。次の彼も、その次の
元旦那も『雰囲気が嘉一に似てるかも♡』
とかいって選んでたくせに」

 歴代彼氏を熟知している果歩に鋭く突っ
込まれ、凪紗は、うっ、と言葉に詰まって
しまう。新しい恋人に嘉一の面影を重ねて
いたのは本当だった。

 「ほらぁ。ダメもとで行ってみなさいよ。
接骨院の場所、調べればわかるでしょう?
まずは飲み友達として復活くらいのつもり
で近づいてみて、既婚者だったら即撤収で
いいじゃない」

 「即撤収って。もし冷たくあしらわれた
ら傷つくし、彼に気持ち悪いとか思われた
ら嫌だもん。思い出は綺麗なままとってお
いた方がいいの。それに、どこも痛くない
のに接骨院行くとか、在りえないでしょ?」

 もっともなことを言われ、「確かに」と
果歩は渋顔で腕を組む。凪紗は親友のその
顔に肩を竦めると、すっかりイケオジとな
っていた嘉一のやさしい笑みを思い出し、
疼く胸に目を伏せた。




 「……や、やっと着いた」

 痛む腰を擦りながら、歩くたびに軋む右
股関節を庇いながら、ようやく辿り着いた
『もとみや接骨院』の前で凪紗は項垂れる。

 先週、接骨院に行く理由がないと親友に
主張した凪紗だったが、その数日後、家の
中を歩きながら担当と電話でやり取りをし
ていた際に、うっかり床に落ちていた資料
を踏んづけて転倒してしまったのだ。電話
を手にしていたこともあり、大開脚をした
のち妙な格好で倒れ込んだ凪紗は、以後、
腰と右股関節の痛みに悩まされることにな
ってしまった。だから、ここに来た理由は
ちゃんとあるのだ。