歩道橋からの帰り道、私は手を差し伸べてくれたお兄さんの手を離さなかった。離せなかった。だってこの手を離したら、私に生きて欲しいと言ってくれたこの人とは会えなくなる。そうしたら、また孤独な日々が始まる。
孤独が怖い、私はこの男と出会いそう思ってしまった。沈黙の中、男は私に問いかけた。
「ねぇ、何か辛いことがあるから、あんなところに居たんでしょ?その辛い事、無理のない程度でいいからさ今度聞かせてくれない?」
この男を信用した訳ではない。けれど、この人ならわかってくれるんじゃないか。と期待してしまう自分がいる。そしてこの先、一生孤独でいるくらいならば、どこの誰かも知らないこの男といた方がいいと思った。
だから私は承諾した。
それと同時に連絡先も交換した。
もし何かあったら、助けを求められるようにと、お兄さんが提案したのだ。
これで、この先私は完全な孤独じゃない。何かあれば、頼れる人がいる。
でも、私はその頼れる人の名前もどこの誰なのかも知らない。聞けばいいだけかも知れないけれど、私は人に物を尋ねるのが嫌いだ。
だから聞かないことにした。