——サイコパス王太子。

 アマリリスの中でルシアンはそう定義づけられている。ただしアマリリスはあくまでも書物を読んで身につけた知識なので、医師のように正確な診断ができるほど経験を積んでいない。

 しかも相手は王太子ということもあり、簡単に相談できる内容でもないのだ。初日の態度を思い出す限り、国王陛下もルシアンがサイコパスだとは考えていないだろうとアマリリスは予想する。

 本で読んだ対処法としては、サイコパスが執着している人間に裏切られたと思ったら途端に冷酷で残忍な敵意を向けるので、適度な距離を保つのがベストということだ。

 それゆえ先日提案された、ルシアンの婚約者になる代わりに兄たちを探してもらうというのも素直に頷けない。ルシアンの婚約者になってしまったら、きっと戻ることはできないだろう。

 それでもいいと思うほどルシアンに気持ちがあればいいが、あいにくそこまでの感情もないし、アマリリスは王太子妃になりたいと思ってもいない。貴族にすら執着がないのだから、面倒ごとはむしろ避けたいのだ。