そこでこの口うるさいケヴィンを黙らせるため、過剰ともいえる業務を割り当て得ることにした。
 ところが、エイドリックが面倒だと思っていた帳簿管理をケヴィンに任せると、今までよりも小言が増えたのだ。

「旦那様、こちらとこちら、それから次のページにも数字の写し間違いがございます」
「そんなもの、お前で直しておけばいいだろう!」
「いえ、それではミスがなくなりませんので、今後の効率化を図るためにも早急に対処が必要でございます」
「ぐぬっ……直せばいいんだろう! わかったからお前は下がれ!」
「では失礼いたします」

 自分の価値を正しく理解しているケヴィンは、エイドリックに容赦なく間違いを指摘した。アマリリスが去った後、少しずつ使用人を減らしている。

 帳簿の管理を手伝うようになり、クレバリー侯爵家にはどれくらいの時間が残されているのかも理解していた。

(アマリリス様はルシアン殿下の婚約者候補になられたと聞いたが……あのお方ならうまくやれるだろう。できればアマリリス様のおそばでお仕えしたかったけれど、私もそろそろ身を引くタイミングなのかもしれない)

 ケヴィンはこの時、砂上の楼閣であるクレバリー侯爵家とともに沈む覚悟を決めたのだった。