「それではルシアン様、しばらくはマンツーマンで授業をいたしますわ」
「うん、よろしく。アマリリス先生」

 アマリリスは昨日お茶会で聞いた嫌味な言い方を例にとって、ルシアンへ教えることにした。実践に近い情報の方が理解が早いと考えたからだ。

 表情や仕草に関する情報は置いておいて、厳選した貴族たちのセリフを思い浮かべる。

「これから私がルシアン様に貴族特有の言い回しをしますので、昨日の私の切り返しを思い出しながら答えていただけますか?」
「わかった。昨日のことなら鮮明に覚えているからやってみるよ」

 ひと息置いてから、アマリリスは自身に向けられた悪意の言葉をルシアン用に変換して言い放つ。

「ルシアン様。王太子のお仕事が大変なら、しばらくお休みになられた方がよろしいのではなくて? 臣下に任せてもなにも問題ないものでございましょう?」
(意訳:お前如きでは今の仕事はこなせないのだから、もっと優秀な部下に任せて引っ込んでいろ)

 アマリリスは昨日、婚約者候補など不相応だから引っ込めと言われたのだ。そこで『私もそうしたいのは山々ですが、ルシアン殿下が許可してくださらないのです』と言い返した。王族の判断に文句があるのかと暗に伝え、アマリリスがルシアンに溺愛されていると勘違いさせる発言であった。