アマリリスはクレバリー侯爵家のタウンハウスから一時間ほど歩いて、王都の中心部までやってきた。

 太陽は徐々に下り始め、背の高い時計塔に隠れてしまっている。時刻は十六時をすぎたところだが、今ならまだ最終の乗り合い馬車に間に合うはずだ。

 気候が暖かい南に行こうか、異文化の栄える東に行こうか、それとも商業の発達している西に行こうか。北は寒いけど魚介類がおいしいと聞く。

 このフレデルト王国を追い出されたとしても、生きていければどこでもいいとアマリリスは思った。

 どこへ養子に出されたのかも知らない兄たちに、どこかで会えたら嬉しいがそれは望み薄だろう。

 それにアマリリスは行き先も慎重に決めなければならない。みんなが用意してくれた金貨を無駄にしたくないからだ。

(できることなら、使用人たちが困った時に手を差し伸べられるような職業がいいわ。クレバリー侯爵家が没落するのも時間の問題だし……せめて勤め先を紹介できるようなお仕事がいいわね)

 今のアマリリスが使えるのは、クレバリー家の図書室で詰め込んだ知識と、帳簿の付け方、相手の心理状態や性格を捉えてうまく転がすことくらいだ。