見覚えのない精悍な青年がルシアンの婚約者であるアマリリスをエスコートしているので、フレデルト王国の貴族たちは会話も忘れてどういうことかと必死に思考を巡らせている。

 テオドールを知るリオーネ王国の外交官たちだけが、穏やかな瞳でふたりを見守っていた。

 そんなふたりを見て、誰よりも顔を青くしたのはテオドールを追放したエイドリックだ。

(あれは……まさか、テオドールか!? しかし、入国拒否にしていたはずなのにいったいなぜ? もしかして……アマリリスが手を回したのか!?)

 エイドリックは必死にロベリアを探した。三日前にアマリリスの侍女となったロベリアから、今日の夜会で嬉しい発表があるはずだという内容の手紙を受け取っている。
 だが、エイドリックがどこを探してもロベリアの姿は見つけられなかった。

(ロベリアはどこだ……!? もしや、ロベリアが婚約者として発表されるのか! それが嬉しい発表なのか……!)

 それならば婚約者としてルシアンと入場するのかもしれないと、エイドリックは胸を撫で下ろす。テオドールの姿を見て焦ったが、ロベリアがルシアンを奪ったのだと思い至り王族の入場を待った。